人間がやる仕事

以前AIに政治を任せたらどうなるだろうという事を書いた。
では多くの日本人が苦手とする外国語コミュニケーションでのAI活用はどうだろうか。
機械翻訳の精度は驚異的に向上し、今やNICTのオンライン翻訳の実力はTOEIC満点程度の人と肩を並べ、特に日英翻訳はプロ翻訳者と同等レベルにまで達しているらしい。では近い将来、翻訳・通訳の仕事はAIに駆逐されるのだろうか?

以下は「ミスター同時通訳」、「ベンツに乗った安定感」と称された同時通訳の第一人者、故村松増美氏が、かつてダイアナ妃と共に来日したチャールズ皇太子の国会でのスピーチを通訳した時のエピソードである。
チャールズ皇太子は、当時の浩宮殿下(令和の今上天皇)がイギリスのオックスフォード大に留学されていた事に敬意を表した後、
「ただもし私にご相談頂けていれば私の母校ケンブリッジをお勧めしていたでしょう。」と続けてその場の笑いを誘った。しかし実はこの「私の母校」という言葉は英語の原文にはなく、村松氏が通訳の際に咄嗟につけ加えたものだという。
村松氏はこの場面を自著の中で振り返り、「声の調子が代わり『あっジョークが来るな』と判るんです。笑って貰わないといけないところなのでこれぐらいの『サービス』はよくやるんです。」
と述べている。

このようなレベルには、字面だけ忠実に訳すだけではもちろん、更にそれまでの文脈から判断してもまだ届かない。
チャールズ皇太子がケンブリッジ出身だと予め知っていた上で「英国では周知であるが故に省略された前提であり、日本人の聴取のために付け加えねばならない」という判断をその場で自分の責任で行って初めて出来る事である。

今後いくらAIが発達しようとも、人間が行わねばならないのはこういう仕事なのだと思う。

URL :
TRACKBACK URL :

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)